◆ 金魚!? ◆
彩芽さんが金魚を届けてくれた、次の日の朝―――
あたしは戒の部屋に金魚を届けにいった。(元々この金魚たちは戒へのお土産のつもりだったし)
金魚をだしにあいつの部屋に行って、ついでに夏休みの宿題を一緒にやろうと思っていた。
バイトや家事で宿題の方はまるきり手つかずだったから、二人で分担してやれば早いだろうし。
そして、それをきっかけに―――叔父貴と何があったのか、ちゃんと話そう。そう決めていたのに―――
けど、あいつは居なくて。
変な風に緊張していたから、居ないことに拍子抜け。
おかいしいな。今日のバイトは午後からだってのに。
空っぽの部屋を覗いていると、
「戒さんならさっき出かけていきましたよ」とたまたま通りかかったキョウスケが教えてくれた。
水で濡れた洗濯物がつまった籠を手にしている。
どうやら庭の物干し竿に干すところみたいだ。
「どこへ……?」と聞いたけど、
「さあ」とキョウスケは気の無い返事。「お嬢こそ、ここで何を?」
「あ!えと!き、金魚!金魚をあいつのお土産に!」
あたしは慌てて言った。まさか戒が居ないなんて思ってなかったし、そいでもってキョウスケが来るとは思ってなかったから、あたしの答えは変な風に裏返った。
だけどキョウスケはあたしの返事を特に訝しく思ったわけではなさそうで、
「金魚?ああ、昨日彩芽さんが持ってきてくれた…」と言って小さく微笑む。
いつものキョウスケの様子を見て、あたしはほっと息をついた。
「か、戒さぁ。金魚好きかな。もらっても迷惑じゃないかな?」
「迷惑ではないと思いますよ?戒さんは基本ちっちゃい生き物が好きなんです」
キョウスケがそう言って、意味深そうにあたしを見てきた。