「気が利かねえ野郎だな、てめえの前におわす方はな、印籠なくても誰もが土下座する大妖怪溝出様だぞ、ェアーン?ぼんどの一つでも持ってこいや、てめえの包帯の目んとこに少女漫画風のでかい目書くぞ!油性でな!」
「生意気な骨だな、おい、こら。俺に因縁つけるだなんていい度胸じゃねえかよ。骨に般若心経書くぞ!耳部分だけは書かずにな!」
「やんのか、てめえ!」
「やんのか、おらあ!」
「あなたたちは生き別れの兄弟か何かですか……」
思考レベルが同じだと思えば、力的には藤馬が上らしく、びしっと地面に溝出を叩きつけた。
すかさず溝出が歯向かおうにも――
「ヒャ?」
ぞわり、と。
鳥肌が立たない骨なのに、寒気が背後から感じられた。
殺気だ。まとわりつき、殺意のどす黒い念を可視させるような、背後の脅威。
ライオンの前にいる牛肉、蜘蛛の巣に引っかかったハエ、主婦たちの前に置かれた特売ワゴン。つまりは狙いを定められた格好の獲物たる自身に逃げ道などないし、その脅威の根源を頭で描いていようとも、間違いであってほしいと希望を求めて振り向く。


