「溝出……」
悲しみと呆然が混ざった声を出したのは冬月だった。
いつもは遊びと称して、はっちゃける噛ませ犬を散々制裁してきたが――こうやって動かないのであれば、胸につんと冷気が通る。
煩わしいと思い、殺意だって芽生えたザコキャラにしろ、長い月日を共にすれば情とてあった。
冬月は冷酷だ。しかして、人間でもある。
その人間らしさが胸にできた冷気を取り払おうと――こんな気持ちを持つなら救えと訴える。
「どないすれば……」
いざ失う恐怖が、焦燥感を駆り立てる。
救いたいと根っから思うわけでもないが、自身の心にできそうな溝に泣いてしまうのではないかと危惧した。
噛ませ犬、妖怪の一匹死んだところで泣くこともないが、世の中にはもしもがある。


