「…神崎くんが今、考えていることを『全部わかる』なんて言えない。
だけど神崎くんがすっごく苦しい気持ちになっていることだけは、…それだけはわかるよ」
「ッ」
「だけど…ね、神崎くん」
ささやかな重みが自分の手に触れて、それが椎名さんの手のひらだということがわかるまで数秒時間を要した。
小さくて白い手が、きゅっと俺の指先を包む。
「神崎くんが真っ暗なところでひとり泣くなら、私がそこまで行って助けてあげる。
絶対にひとりになんてさせない。
私が君を守るよ。……ううん、守らせて」
あぁ、本当に、このひとは。
どこまで俺を惹かせたら気がすむんだろう。
「女の子にここまで言わせる俺は…本当に情けないね」
いつもはふわっと笑うのに、こういう時ばかり凛々しい顔をして。
椎名さんはやっぱり自分よりずっと男前だ。
「そんなことない、神崎くんは情けなくなんか」
「…ありがとう。本当に君は素敵な人だ」
黒髪に指を伸ばして梳くと、照れくさそうに顔を背けた。
「じゃあ俺からも約束」
「へ?」
「俺を守ってくれる椎名さんを、俺は守るよ。これから先なにがあろうとも」
「っ」
「誰にも君は穢させない。絶対に失わせない。どんな形に、なっても」
─元来、言葉には魂が宿ると言われている。
言霊使いの巫女である椎名さんがそれを一番よく理解しているだろう。
音と詞に乗せて、人間風情の祈りを叶えてくれるのは神か、それとも偶然か。
…俺は多分、どっちも違うと思うんだ。
「人の思いの強さって凄いよね」
「う…ハイ」
「顔真っ赤。さっきまであんなに椎名さんかっこよかったのに」
