はらり、ひとひら。



目を閉じると暗澹とした闇が世界を満たした。

あぁ。
こんなにも黒く染まるのか。


「……許せない」

吐き出した声は汚い欲に塗れていた。

今すぐあの喉笛、斬り裂いてやりたい。
どうして罪のない義妹が、こんな目に遭わなければならないのか。

神崎家の立場だとか人としての倫理だとか。どうだっていい。何もかもすべてかなぐり捨てて、欲望の赴くままに刀を振るいたい。
赤いしぶきを浴びたい。断末魔を聞き届けたい。月子が受けた苦痛の倍以上の苦しみを味わわせたい。


「神崎くん!!」

落ちかけた意識を引き戻したのは、絶望の中で光る唯一の白い光だった。
心配そうにこちらを見る、オレンジがかった明るい瞳。


「平気…?」

とたんに視界が開ける。
黒いもやが浄化されたように消えていく。


「…っ、俺は何を…考えて」


これじゃあ同じ穴の貉だ。
獣はどちらか。

自分が恐ろしくなって仕方がない。
これも神崎の血なのか。
それとも狂っているのは自分ひとりか。


「バカだ…」


自嘲して笑うと色素の薄い両の手が俺の頬に触れる。


「しっかりしなさい」

「……!」

「飲まれないで。見失わないで」


凛とした声だった。
どこまでも通って、ただ我が道を往く真っ直ぐなかがやき。