はらり、ひとひら。



「!?」

義兄ら二人が顔色を変えたのがわかる。ただならぬ雰囲気に椎名さんの顔も強張る。


「─野生動物の急激な減少も、麻上のこの術のせいだとすれば合点もいく…」

自分で言いながら冷や汗が流れた。

あの日、占い師が持っていたあの霊符。
一目見た時から随分と凝った術が仕掛けられているとは思っていた。

だけどまさか、あんなおどろおどろしい式神が飛び出すとは思わなかった。


疑念が確信に変わる。
あの占い師は間違いなく麻上交宵だ。



「でも…なんで月子を襲ったんだ? 目的がわからねえ。だって麻上の狙いは……」

「千鶴」

「っ悪い」


口を滑らせたのだろう。たしなめられた彼は居心地悪そうに口を閉ざした。

いや、わかっている。
そうなのだ。俺も、麻上がなぜ月子を襲ったのかわからない。

麻上の怨敵は神崎家─俺のはずなのに。
なぜ、分家の月子を狙ったんだ。

そんなもの、理由はひとつしかない。


「…餌だ」


「え?」

「麻上は…月子を使って、俺を焚き付けるために─…獣にあの子を襲わせたんだ」


誰も何も言わなかった。
重苦しい空気が更に淀んで、今すぐ妖が湧きだしてきてもおかしくないほど。

だけどその沈黙は肯定だ。
みな、わかっていること…