でも、どうして?
さっきラミーさんにもらった時はこんな術が描かれていなかった。
途中で霊符の術式が変わるなんて聞いたこともない。
まさか―
そう思い一度お皿を置いてポケットを探って衝撃を受けた。
「すり替わってる…!?」
探しても探しても、指先には生地の柔らかい感触しかしない。
…いつ?
「っ」
神崎くんは、どこ。
多分この札を仕込んだのは神崎くんだ。
なんのために? どうしてこれを? そして─なぜあの札を持ち去ってしまったの?
頭が混乱して吐き気までこみ上げてきた。喉が、熱い。カラカラだ。
「杏子、どうしたの。気分悪いなら部屋に」
「薫……」
触れてくる手は真夏なのに冷たい。
たったそれだけで心臓が縮こまる音がする。
今の今まで、ずっと一緒に過ごしてきた。
三週間近く、同じ屋根の下、息をしてきたはずの人が。
ひどく、遠い。
「薫は、人。…だよね?」
片方しか覗いていない目が衝撃的に見開かれた。
そしてすぐに伏せられる。
短く、「たぶん」と返されて力が抜けた。
あぁ、と。
─修羅の血。
―遠い昔結ばれたであろう、縁。
―神崎くんとの仲違い。
―失われた記憶。
―森で初めて会ったとき見た、戦いぶり。
─同じく、森で聞いた薫の「俺は化け物じゃない」という叫び声。
なぜだろう。
体中をいやな予感が這いずり回って、気がおかしくなりそうだ。
こんなこと信じたくないのに。薫を信用してあげるべきなのに。
だってやっと、こんなに仲良くなれた─
「…わからないよ、私……薫がわかんない」
「…! 杏子ッ、まって─」
「ごめん、一人にして。今は……」
やんわり手を払うと薫はひどく傷ついた表情をした。
こんな顔にさせているのはほかでもない私なんだと思うと自分を殴りたくなった。
