「か…神崎くん」
いつの間に。さすがの足の速さだ。
きょろきょろ見回すと、飛鳥たちは少し離れたところで立ち止まっている。
なんで止まるんですか。来てくれたほうがありがたいんですが。
秀くんが親指を立ててサインを送ってきたけど何がグッドなのか聞きたいところである。
「しゅ ら ば ?」と口パクでたずねた秀くんの頭を飛鳥がスパン! とひっぱたく。
「…あの」
「だからそういうのが気に入らないんだって。何その目」
「ちょっ、薫!?」
勇気を出して口を開いた意味、ゼロ。
それどころか薫は神崎くんに掴みかかって、自分より背の高い彼をきつく睨みあげた。
「放してくれないか」
「杏子に近づくな。嫌なんだよお前のその匂い。その顔も、全部が」
もうわけがわからなかった。
…どうしてこんなにも神崎くんにきつくあたるの?
だって薫は記憶がないはずじゃない。
でも、そんなこと言ったら?
今でさえ疑いの目を向けているのに、神崎くんは更に薫を疑うだろう。
─その疑いがあれば薫の生まれがわかるかもしれない。
家も記憶も取り戻す手がかりになるかもしれない。
だけど何かがちがう。
これ以上この二人を近づけては、いけない?
とっさに薫の手を掴んだ。
「っ邪魔すん…」
やめてと吐き出す声が情けないなんてわかってる。
声にならない吐息、けして嗚咽は漏らさないように。
薫はバツが悪そうに目を逸らして、「なんで泣くの」とあきれ返った。
「それは、どっちのために泣いてるわけ」
そんなの
「両方に決まってる…でしょ!?」
このやろう、ばかやろう。
男の子って意味わかんない。いきなり喧嘩し始めて話聞かないし。
薫はガラ悪いわ、神崎くんはハッキリ物言わないわ!
「キミらねえ、両極端なんだよ…!」
ぶっきらぼうすぎるのと優しすぎるの。
ていうか…なに。
これはもしかして、もしかするとアレなのか。自意識過剰の可能性も大いにあるけど、やっぱり秀くんの言ってたとおりの修羅場ってやつなんだろうか。
なんてぼんやり考えてもみるけど。
実際、少女マンガのような「私の為に争わないで!」どころの騒ぎじゃない。
そんな止め方で止まるなんて男の子じゃないだろう。
「ん…もう!!!!」
抑えこんでいたむかむかを掌に溜めて、思いっきりほっぺたをぶっ叩いた。
「…っはー…」
自分で叩いたけど想像以上に痛い。衝撃で涙は引っ込んだけど。
目を丸くした神崎くんがやっと笑って、「スーパーで保冷剤貰って冷やそう」と言ってくれた。
そのほっぺを思い切りぺしんと挟んだ。薄茶色の瞳がまた丸くなった。
「…痛い」
「当然です。ほら薫もッ」
「は? やだ…っていダい!!!」
これで平等。じんじん痛むほっぺは三人お揃いの罰。
「次喧嘩したら今度こそグーパンチだからね」
