「杏子、さっきからへらへらしてる」
ツキン、と氷で心臓を刺されたような感覚。
「…それが、気に入らない?」
薫は否定も肯定もせず、こっちが目を逸らしたくなるほどキツく、私を見つめた。
「そんなに見たら穴開いちゃうよ」
「開けば。知らないし」
「…もう。何拗ねてるの?」
訊ねても知らんぷりで首を振って、まるでおっきい子どもみたい。
どうしてこんなに機嫌が悪いのかわからないけど、ここで怒っても意味がない。
落ち着かせるためにひとまず頭を撫でた。
「俺杏子のそうやって誰にでもへらへらするとこ、嫌い」
「…っ」
情け容赦ない言い草に胸が縮こまった。
─へらへら、か。
確かにいっつも笑ってるな、私。
「あは、そっかごめん。気を付ける」
「…そういうところだってば」
はっとした。
また私笑ってた。
「なんで笑うべきとこじゃないのに、笑うの。意味わかんない」
「…んー、さあ。なんでかな。…わかんないけど、やっぱり私、怒ったり泣いたりするより、笑う方が好きだよ」
…ううん。これは建前だ。
本当は、ある種の"逃げ"や"強がり"なのかもしれない。
弱さを覆い隠すための防衛本能なのかもしれないって、薄々自分でもわかってる。
でもこればっかりはしょうがない。
「へへ、なんでだろ…癖なのかも。ごめんねー気持ち悪いよね。気を付けるから」
「! 別に気持ち悪いとかじゃ…ない、けど」
…けど?
薫はそれ以上は何も言わなくなって、重苦しい空気が更に重くなった。
廊下の蒸し暑さと相まって死にそうだ。ヘルプを出したい。
「…ごめん。なんかイライラして、八つ当たりした」
「ん。いいよ、暑いからかな? リビング涼しいから行こう─」
