そういえば、飛鳥の進路は大体聞いているけど神崎くんにはあんまり聞いてない。
やっぱりお家を継ぐんだろうか。
それとも一応は大学を出て、他の道を選べるように選択肢を増やしておくんだろうか?
矢野先生なら、何か聞いてるかな…担任だし。
「先生」
「なんだ? 解けたか?」
「ううん。神崎くんから、進路のこと何か聞いてます?」
意外な質問だったのか先生は目をパチクリさせた。
「聞いてないのか?」
「はい」
「あ、それ俺も気になるー」
秀くんも聞いてないのか…
「んー…祓…い屋、じゃなくて! 家業継ぐって言ってたけど、一応大学も検討してるらしいぜ。ギリギリまで迷うって」
今、完全に口を滑らせかけたよね?
案の定秀くんは顔にハテナマークを浮かべた。
「はらいや?」
「あああ! なんでもねーって」
「ふーん。そいや神崎んちって何やってんすかあ? なんであんな家でっかいんすか?」
ぎくり。聞かれてるのは私じゃないのに、こっちまで変な焦りが出てきてしまう。
「さ、さあなぁ? 先祖が有名武将とかなんじゃねぇの?」
嘘へたくそか!
「えーーっ。そんなんいる?」
「あーーーーえーと違う違う! なんか、呉服屋さんって聞いたよ前に!」
「…はへー。呉服屋ってすげえな。まあ確かに、あいつん家キレイな着物きた人いっぱいいるよな。お手伝いさん」
な、納得してくれた。横目で見た矢野先生は「助かった」と顔にはっきり書いてほっとしていた。
この人の嘘のつけなさはさすがに問題だ。
気まずかったのか、気恥ずかしいのかわからないが、咳払いをして先生は椅子に座り直した。
「とりあえずお前らも進学だろ? そのためには勉強しなさい勉強」
この切り替えスイッチの早さ、さすがである。
「んー、でも就職でもいい気がしてきた」
「マジで? この辺なんもないぞ朝比奈。でも本気なら今度親御さんと三者面談してやるから」
「まじっすか」
就職かあ。
私、どんな大人になるんだろうか。
漠然とした将来をふと頭に描く。
何もないところにぽつんと、一人だけ立っている私が見えた。
いわば妖と人の世、両方に足を踏み入れて生きている私は…いつか、どちらか一方を選ばなきゃいけないときがくるのかな。
師匠のこの間の言葉が急にフラッシュバックする。
『お前は幽世を知りすぎた』
─いつか、知りすぎた罰が下るのだろうか…
「…杏ちゃん?」
「…へっ」
「どしたのよー元気ないじゃん」
