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「は~~~…わからーーん…」
「ほれほれ頑張れ、そこさっき教えたろ?」
「せんせーなんで化学とか習うんすかー」
「…お前ら」
ながーーい溜息をつきたいのはこっちですよ矢野先生。
外は茹だるような厚さだが、特別解放してくれたパソコンルームはクーラーでキンキンに冷えている。正直本当に涼しくてありがたいのだが、だからといって特別やる気がわき出るわけもなく。
今日は、特に私の苦手な化学の補習。なんと驚くことに補習対象は私と秀くんの二人だけ。さすがにこれには秀くんと二人で肩を叩きあって笑ってしまったね。…現実はもっとシビアなわけだが。
ていうかなんでみんな、サラッと化学赤点回避してるんだ。くそう。いや…みんなが勉強したからか。
私ですか? しましたよもちろん。かなりやったんですけど、駄目でしたね。つらい。私の点数を見た飛鳥の「杏子は根本的に勉強の仕方がわかってない」という同情もないお言葉を思い出して不思議と視界が悪くなった。あれ。涙だこれ。
「うぉっ!? 杏ちゃんどしたの!?」
「おおぉ…秀くん……どうして世界は私たちにこんなにもつらくあたるんだろうね…」
「あ、杏ちゃん…わかる…わかるけど、ここでくたばっちゃ駄目だぜ!」
こういう時こそ、これ! と得意げに秀くんは鞄からチョコのお菓子を取り出す。一瞬で自分の腹の虫が鳴く。彼は神様なのか。
授業中という体を完全無視してぺりぺりと開封する秀くんの頭を矢野先生の教科書がヒットした。
「イッテ! 馬鹿がもっと馬鹿になる!!」
「授業中。そういうのは駄目だ」
「ぶー! いいじゃん! 先生のいけず!」
さすがに駄目か、と大人しく引き下がろうとしたが秀くんはどうしても不満な様子で。暫く攻防を続けていたが、糖分補給も大事ということもあり、他の先生に見られないようにと約束のもとお菓子条約は承諾された。
ありがたい。厚さで若干溶けてしまったプレッツェルを齧りながらプリントに目をやった。
「お菓子食べながらなら頑張れるよなあ」
「……」
…暗号。無理。なんだこれ。
これならまだ、昨日蔵にあった書物のミミズっぽい字の方がすらすら読める。
先生はがっくり肩を落とす秀くんをぽんと叩いて、まあるい笑顔を咲かせる。
「頑張ってここで巻き返して、九条と同じ学校行こうぜ」
「ぶっ、な、なななんすかソレ」
「な? 椎名も神崎くらい賢くなって、見返してやれよ!」
「っ先生…!?」
なんでそこで神崎くんの名前を! 出すんですか!
勝手に顔が熱くなって恥ずかしい。
「ずるい先生! 大人だからって」
「そ、そうだそうだ!」
「はいはい、悪かったって。お前らもわかりやすいなー。青春だなぁ」
ぐ…まだ言うか。じとっと睨むといよいよ反省したのか、それ以上先生は笑うのをやめた。
まったくもう…
でも、ここで頑張ったら神崎くんも褒めてくれるだろうか。
「頑張ったね」なーんて、頭撫でられちゃったりして…
「椎名、鼻の下伸びてるぞ」
「…はっ」
それは放送NG!
