side-杏子
泣き疲れて、いつの間にか眠っていたみたいだ。
気が付くと薄手の布団がかけられている。真夏と言えど、冷えないように薫がかけてくれたのだろうか?
師匠は、まだ…帰っていないのかな。見回すと、部屋の隅っこで薫が座ったまま器用に眠っていた。
気だるい体を起こして近寄った。やっぱり白い顔は寝ていても少しどこか、寂しげで。幼さを余した寝顔に感じるのは遠い懐かしさ。
蛟が言っていたけど、やっぱり薫と私には何かの縁があるのは確かなのかもしれない。
「…寝違えちゃうよ」
夢の中の薫に私の言葉は届くわけないけど。
今度は私が夏掛け布団をかけてやり、窓の外を見る。明るい。まだ夕方だ。
「…そういえば」
途中で言い争いになって、師匠のお勉強講座、途中で中断されちゃったな。
久しぶりに、蔵にでも行って調べ物をしてみようかな。
薫の記憶が戻る手がかりが何かあるかもしれないし。
私はお母さんに蔵の鍵を借りて、ひとり埃っぽい蔵へと向かった。
・ ・ ・
かちりと電気をつけると裸電球が作動して、蔵の中を照らした。
掃除以外では立ち寄ったことはないし、何が置いてあるのかもいまだによくわかっていない。
埃っぽいここにはよく見ると、本がどっさり置いてあって、年季の入った簡素な机や椅子があるだけのようだ。
なんか、まるで誰かの書斎みたいだなあ。
「うーん。勝手に見ていいのかな」
鍵借りる前に、お母さんに聞いておけばよかった。
でもま、何も言わなかったってことは自由に見てもいいのかな。
正直気になるし、本を見てみたいという欲求に負けひとまず一冊の本を手に取った。
和綴じのそれは表紙はぼろぼろで、開くと古本独特のあの匂いが鼻をくすぐった。
「……」
どうやら、和歌集のようだ。誰が書いたのかはわからないが、恐らく椎名家の御先祖様が遺したものなんだろう。紙の感じを見る限り、相当古いものだと思う。
となりの本を手に取るとこれも同じで、ロマンチックな人もいたもんだなあと感心した。
少しくらい文才を分けて頂きたいものだ。
「えーとこれはなんだ…」
別のを手に取って何気なく捲ると飛び込んできた絵に目を疑った。
「おぁああっ!!??」
勢いよく閉じられたページから埃が舞って、目が痛い。
ちょっと。
「…春画…本当にあるんだ……」
大変気まずい思いをしてしまった。人の趣味を詮索するのは失礼だけど誰の趣味だ。
浮世絵風の男女が絡み合う濃密な絵はあまり見たくないので、端っこへとよけた。
