「みず、ち」
「奪うことは悪じゃない。…確かに一般的に奪うことはひどいことだ。人の命なんて尊いものなら尚更」
だけど、と蛟はすっと目を細めた。
「誰かが誰かを守るために振りかざす悪を、僕は悪だとは思わないよ。その人にとっては少なからず誰かを『守る』ために振るった正義でしょう? なら許されてもいいじゃない。何がいけないの? 見方次第だよ」
「たしかに…」
蛟のそれは開き直った、ひどく傲慢な考えだとは思う。でも…確かにそうだ。その通りだった。
「神は奪うこと、与えること、どっちもする。人の営みとなんら変わらないんだ。神のほうが人よりよっぽど傲慢さ」
だからそんなに気を負わないで、蛟は優しく呟いた。
「君はただの人の子。確かに貴重な血を継いでいるから少しだけ丈夫かもしれない。普通の人間よりはね。…でも、それでも君は不老不死でもなんでもない。油断してはいけないよ。人の命を守ってばかりじゃ自分を守れない。…日々を大事にしなね」
油断してはいけない。日々を大切に。
蛟の言葉の端々には確かな力が宿っていて、胸に突き刺さってじわりと広がる。まるで薬がお腹で溶けるみたいに。
「ああそれから」
蛟は思い出したように付け加える。
「その少年と君の間には不思議と縁(えにし)が見えるよ。遠ーい昔、君らのご先祖様同士が仲良しだったのかもしれないねえ」
「縁が…? そうかだから…」
なんとなく懐かしくて、彼を知っているような気持ちになったんだ。
はたと思い出す。
それなら、納屋に何かしら資料があるかもしれない。それになんとか説得して彼に話を聞くって言う手もある。
…話。まともに聞いてくれるだろうか。話してくれるだろうか。
「まあ暴れると思うよ」
ケラケラ笑う蛟に頷く。私もそう思います。くそう。今のうちにぐるぐる巻きにして暴れられないようにしてやろうか、なんて意地悪な考えが頭に浮かんだのは秘密だ。
白い、透けるような肌と長い睫毛の彼を見る。未だに動かないその人を、やっぱりどこか懐かしく思った。
…だけど縁なんて、いつどこで結んだのだろう。不思議だ。
