そんな、まさか。だってそんな、ありえない。
修羅の血を引く人間はごく稀。本当に一握りの奇跡のような存在。
全国を駆けずって探しても、見つけるのが困難なのにこんな田舎町にまた新しくその血を引く人が現れたなんて。
…信じられなかった。開いた口が塞がらない。
「何ぼそぼそ話してるんだよ。そこどいて。邪魔」
「あ、ごめん…ってどこ行くの!」
「どこだっていいだろ。お前に関係ないじゃん」
少年の腕をすかさず掴めば嫌そうにまた眉間に皺が寄る。
「か、関係なくないよ!」
確認する方が早い。ぼろぼろのシャツの釦を掴んで素早く外す。目を剥いた。
「な、ない…傷が……」
「なっ…にしてんだよ!」
物凄い力で突き飛ばされて地面に転がる。もろに頭を木の幹に打ち付けてしまい、星が散った。うえ、気持ち悪…!
師匠が「小僧」と低く唸って睨みつけているのをかろうじて確認する。少年が、近づいてくる。それを阻むように師匠がゆっくり立ちふさがる。
少年は低く唸る。
「お前。妙なことばかりしてると本当に殺すよ」
「ちがっ、ごめんなさ、お願い、話を聞いて…」
「杏子。化け物に人の言葉は通じんぞ。大人しく此方が下がるか私が食うか…早く判断を下した方が利口だ」
師匠が鼻を鳴らして呟いた。『化け物』という言葉にわかりやすく彼は眦を釣り上げる。
「俺は─違うッ」
─何が起きたかわからない。獣のように吠えた彼は地面を蹴ると師匠の横腹辺りに素早く蹴りを入れ、間髪いれずに師匠の首元辺りに噛み付く。
─ぞっとした。
その戦いぶりはまるで、人の形をした獣。
少年の目はただ怒りに燃え、口もとはひどく血に汚れ、覗く尖った犬歯はひどく鋭く長く─あれは、人のものではない。
「師匠!」
