はらり、ひとひら。



暫く考え込むと合点がいって納得した。確か前に師匠が教えてくれた。

私の身体からは普段から微量な霊力が吹き出ていて、私を守る盾として機能してくれているってこと。


だから弱い妖は私に触れることもできないし、そういう気配が私に届く前に霊力バリアが断ち切ってしまうんだ。ゆえに感知が難しい。


「どうしよう。霊力の結界、弱めたり出来ないかな」

「さあな。…まあともかく歩いてみるか」

「ンンンン………」

唸りながら霊力止まれ~と祈っているが止まっている気がしない。


より薄暗くなる細道へ歩みを進めながら、第六感を信じようと神経を研ぎ澄ませた。


するとがさりと葉っぱの擦れる音が響いて肩が飛び跳ねる。鳥…ではなさそうだ。


続いて誰かの足音のようなもの。それから…息遣い。


近づいてくる。


「師匠…」

「馬鹿者。よそ見をするな」


こくりと頷いて、唇を引き結んだ。大丈夫。後ろは師匠に任せた。前は…私が守る。

どこから来るかわからない緊張に冷や汗が背中を伝うが頭を振って唇を噛む。


言葉を以て人を守らん。音を以て鬼絶ち切らん。



大地を蹴る音。
げらげら笑う絹を裂くような化け物の悲鳴。

赤いしぶきが目の端をよぎったのは一瞬だった。


肩口を食われたのかと一瞬驚いて声をあげそうになったが、違う。


妖─!


「っ、止ま…」


止まれ、たった三文字の短い言葉すら紡げなかった。


視界に映った一つの金色の目も、私と同じように驚愕を映し出していた。


妖、じゃない。邪鬼でもない。人。同い年くらいの男の子だ。


なんでこんな森の奥深くに。しかも息絶え絶えで。さっきの足音は彼のものだったとして、じゃああの悲鳴は? 聞きたいことは山ほどあった。

疑問が多すぎてわけがわからない。


「っ、け、怪我してる!」

混乱する私の脳みそを冷静にさせたのは血の色。よく見ればひどい怪我だ。

咄嗟に男の子の腕を掴むと振り払われ、警戒を帯びた目でひどく睨まれた。


夕焼け色のオレンジが少年の黒い髪を焼く。


「お前…何だ?」

「え?」


きつい目じりが更にきつく持ち上がって、私を射殺さんばかりに視界に閉じ込める。

蛇に睨まれた蛙ってこういうことを言うんだろう。人の姿をしているのに、人とはえらく違うものに見えて恐怖が胸を占め息を呑んだ。


『お前はなんだ?』

それはこっちのセリフだ、と委縮しながら心の中で言い返していると、今度こそ妖のものであろう足音が近づいてくる。


「っ。しつこい奴…」


少年は忌々しそうに後ろを振りかえると駆け出そうとするが、傷が痛むんだろう苦しそうに顔を歪めた。


「駄目、動いちゃ駄目だよ! 死んじゃう!」

「う、るさい…」


生意気な言い草にむかっ腹が立つがそれどころじゃない。


真正面から突っ込んできた妖。背後に控えていた師匠は回り込んで─


「師匠!」

「言われなくとも」


わかってる、師匠がひと吠えした後飛び込んできた妖を前足で捕え頭に噛み付いて、散らす。