はらり、ひとひら。



山中にある禍を封じてある大岩、通称襲岩(かさねいわ)の様子を見に行くには途中までは緋嘉さんの車で行けるが、山へ車で入るのは流石に無理がある。無論、徒歩だ。


「ああ、それから少し気になる話を聞いてね」

「何か?」

シートベルトを締めながら緋嘉さんはこぼした。


「とある混血の人間の行方が、長らく知れていないらしい」


…混血? は、人と妖が交わった結果生まれた子どものことだ。半妖ともいう。

「えっと、それが…?」

「いやいや、大した脅威にはならんと思ったんだが。それがどうもワケありでね」

車のエンジン音。エアコンの風が顔に吹き付ける。


「その半妖っていうのがどうも─…」


耳を疑う。風量最大のエアコンの音に掻き消されて消えそうなくらい、緋嘉さんはぼそりとつぶやいた。

それでも俺の耳へはしっかり届いていた。

まさか、と。

戸籍も奪われ生死もわからないまま、社会から消された忌み子。
半妖となれば尚更だ。


それが、生きている?

緊張で背筋が強張る。

自分のすぐに黙りこくってしまう悪癖に気づき、取り繕うと口を開こうとするより先に緋嘉さんがかぶりを振った。



「まぁあくまで噂だよ。私が聞いたのもだいぶ前だし、どこが情報元になってるのか誰が言い出したのかも曖昧な」


「…」


嘘かもしれない。ありもしないでっちあげなのかもしれない。

いや、むしろそうであってほしかった。


だけど…わからないけど、俺にはそれがただの噂とは思えなかった。胸がざわざわしてひどく落ち着かない。