喧嘩は両成敗だ。寝起きで相当ご機嫌斜めなんだろうか。…まさかそんなわけはない。
あんなに神崎くんが怒りを露わにするのも珍しい。なんだか、心が痛かった。
「まったく…本当に次から助けてやらないからな」
「ごめんって! 帰ろっか師匠」
そういえばさっき、師匠は「私の家に何かいる」みたいなこと言ってた気がする。
なにがいるのかな。
そこまで考えて、全身に悪寒が走った。
わかる。これは、これは、そこらへんの妖とは格が違う。
「─いや。家に戻る必要はないみたいだぞ」
身体が傾いた。広い背中に遮られながらもなんとなく見える。あたりに黒い気が舞った。
それは衝撃波のように部屋中に広がり、人にぶつかるようにスピードをつけて弾けたものの、誰もあたった人はいないようだった。
『邪魔、ジゃ魔、ジャマするナ!!!』
「…出たな」
にやり。満足そうに師匠が笑った。
視線の先、いたのは黒い妖。ずんぐり太い手が黒い丸い巨体からボコボコと生えて、もう何の形を象っているのかすらわからない。
