部屋でアルバムを見ていたら、お父さんのことを思い出して懐かしくなったこと。
そのとき、変な声が聞こえて黒い妖に飲み込まれたこと。
甘い夢に捕らわれて、危うく帰って来れなくなるところだったこと。
「でも、人を夢の世界に取り込む妖なんているのかな」
「変わり者もいるんだろう。妖と言えどすべての者が人の血肉を欲しているわけではない」
それはなんとなく聞いたことがあった。人を襲わない妖だっているし、魚を好んで食べるものもいる。
人と一緒で好みがあるのだそうだ。
「…もしかしてあの時の」
神崎くんは合点がいった、というような顔をして刀を取った。
「神崎くん?」
「多分俺たちを連れ去った妖は夢に寄生して精気を吸い取ろうとしていたんだ。精神だけを別世界に寄越して、身体は現実世界に置き去りにさせ」
つまり、あの真っ黒な私を大口で飲み込んだ妖が、夢を見させていたということ。
「精神を食い尽くされた体は現実世界では空っぽになる。…もしあのまま、夢の世界に留まっていたらどうなっていたか」
「おそらくは腐っていくのを待つだけだろう。心宿らぬ肉体は現世(うつしよ)ではあまりに不安定。目を覚ますわけがない。自分は幸せな夢を見ていると信じて疑わずそのまま死んで往く」
淡々と呟く神崎くんと師匠にぞっとした。
本当に危なかったんだ。師匠が来なかったら今頃……
