「杏子、おいで…母さんと、海斗と…四人でいつまでも一緒に……」
「…無理だよ。ごめんね、お父さん……」
できないの。だってもう、あなたは─
「帰って。あなたはこの世にあらざる者」
父のかたちを象った虚像はうつろな目で涙を流した。待ってと差し出される手にはもう、惑わない。
「ごめんね、大好きだよ。大好き…お父さん」
─私の望む本当の未来は、ここじゃない。
涙を飲み下した。消えろ、と言霊を唱え、まやかしを崩す。世界ごと破壊してしまうようなエネルギーに、我ながら感心してしまう。
砕けていく幻を師匠と寄り添いながら見つめていた。甘い思い出はガラス片のようになって光を残しながら消えていく。
『いいのかい…これから先、君はきっと大きな壁にぶつかるだろう』
『それだけじゃない、命を落とす危険が迫るかもしれない』
恨みがましそうな父の声に唇を噛む。
「…いいよ。私に待つ未来なら、受け止める。…死ぬのは御免だけど」
そんな未来なら変えてしまえばいい。だって未来は誰かが作ってくれるものじゃない。
「私の未来は、私が選ぶ。─私が作るんだ」
壁があるなら飛び越えて行けばいい。越えられないなら、少し荒っぽいけど壊してしまえばいい。
師匠が私の頭を撫でた。にんまりと満足そうに大きな口が弧を描いて、あ、と思った時には視界が暗転した。
「…う」
瞼を開ける。頭を起こそうとして、やけに重く感じてまた沈んだ。
「ふはっ…あれ? 布団?」
なんで布団に。
…あ、私ちゃんと元の世界に帰って来たんだ。
って、ここどこ!? 明らかに自分の家じゃない。天井が違う、まだ夢の世界!? と飛び起きた。
辺りを見回すと余計に混乱して意味のわからない悲鳴を発してしまう。…なんで隣の布団に神崎くんが寝てるの!??
