はらり、ひとひら。



「朝だ」


伸ばしかけた腕を引きずり戻したのは、白い軌跡。


私を奪い返すように暗闇から引っ張り上げる。意識が混濁して何もわからない。

彼は私の両の眼をしっかり見据えて、不服そうに声をあげた。


頭に獣耳、銀の髪。遊園地には不似合いな華美な和服。

誰、と思うより早く頭に記憶を呼び覚ます。─彼が、どうしてここにいるんだろう。

「忘れたとは言わせんぞ」

「ししょ…う」

「遅いが許す。全く手間を取らせおって。あのガキも探すのに苦労した」


あのガキって? 訊く前に、どうしてかお父さんが蹲っていることに気づいて師匠の腕の中でもがいた。

苦しそうに呻いて、お腹を押さえている。


「お父さん!!!」

「よせ杏子! あれはまやかしだ、惑わされるな」


まやかし? ちがう…だってお父さんは生きている、温かかった。諭す声が頭上に響く。


「思い出せ。お前の父は死んだ。お前が四つの時に」

「─っ!」

言わないでと師匠の硬い胸を叩いた。涙が散る。

「ちがう…! ひどいこと言わないで! ここが、この世界が私の望んだ未来なの!!」


家族4人で共にあること。食卓を囲んで、一緒にテレビを見て、笑い合う。


そんなあたりまえで温かい日常を─夢みていた。


平穏を願うことすら許されないのか。言いようのない怒りが込み上げて心をかき乱した。


「っいや!! 放して!!!」

「この…暴れるな! しっかりしろ杏子!! お前は、お前の意思はどうした!!」

「い…し…?」


意思。

…私の?

「家族水入らず大変結構! だがお前は、家族と自分だけ幸せなら良いというのか! 友人も妖もすべて背負うべきもの捨て置いて、こんな幻に縋ろうというなら─」


それは光。

気高い、誰より高く光る青い光に似た


「私がこの手で、お前を八つ裂きにしてやる!」


─全部、弾けた。