はらり、ひとひら。



婆様のたしなめる声にも耳を貸さず、伯母は日々の鬱憤を晴らすように言葉をつづけた。


「不幸になるわ、この家が。あの子が成長して、神崎を継いだら何もかもお終いよ、渉貴も真弓も、私や母様まで…いいえ、きっと……それだけじゃないわ。千年前の厄災が、─が目覚めて…この町ごと─」

「いい加減になさい!」


乾いた音に驚いて肩が跳ねる。…婆様が伯母さまを叩いたらしい。


「二度とその名を呼ぶんじゃありません。……大体あれはもう滅びました。鎮めて、そのために社もあるでしょう」


婆様の声は怒りに震え、そして何かに怯えていた。察するに『千年前の厄災』は口にしてはいけないほどの何かなんだろう。厄災の名前は聞き取れなかったけれど。


「もう休みなさい。渉貴の面倒は私が看ますから」

「…はい」


遠のく二つの足音。待って、聞かなければ。父は、一体どうしたというのか。母が病に倒れたということも。何一つ聞いていない。

混乱する頭ではあったがまずは現状を知りたかった。呼ぶと二人は大層驚いた様子で俺を見た。


「…真澄さん、あなた…寝ていたんじゃ」

「さっき起きてしまって。…婆様、父上と母上の身に何が起きたのですか」


わかりやすく伯母が顔を歪める。憎悪の色がありありとみてとれた。

勢いのまま、頬を腫らした伯母が何かを口走りそうになったが、祖母に止められ押し黙った。婆様はのびやかな、凛とした声で告げた。


「今朝いきなり、真弓さんが倒れました。渉貴も本日の依頼中…突然妖に背後から襲われ、半身食われたとのこと」


目の前が、暗闇に包まれていく。