湯呑を割った日から数日後。文献を読みながら俺はどうやら眠っていたらしい。時計を見ると、午後10時を指していた。
廊下から何かの声が聞こえる。耳を澄ますとすぐに声の主がわかった。恐らく父の姉…伯母の梢恵伯母さん。それと、父方の祖母、婆様だろう。
何か少し、言い合っているみたいな様子だ。なんだろうとわずかに襖を開けた。
「真弓が病に伏したのも、渉貴が妖に食われて重体なのも、きっとあの子が招いた不幸よ。あぁ嫌だ、あの子本当に気味が悪いったら」
渉貴、というのは父の名だった。耳を疑う。…妖に食われただって?
「梢恵、落ち着きなさい。たまたま不運が重なった程度で狼狽えていては」
「だって! …だって、この間も、空を見てぶつぶつ何か唱えたり…かと思えばいきなりあの子のすぐ近くにあった湯呑が割れたり…だ、だいたいおかしいのよあの子!」
伯母は涙を流しながら叫んだ。
「まだあんな小さい子が、普通あんな─あんな目しないわ! 全てを見透かしたみたいな目が、恐ろしくて堪らないのよ!」
俺は、恐ろしいのか。
「化け物だわ、6つなのに術ももういくつか覚えて…学校から帰って来ては妖の本ばかり読んで!」
「梢恵」
ばけもの。
胸辺りにその言葉がナイフのように刺さった。
