息が止まった。母の声は静かで、何かを悼むような声色を孕んでいた。
「確かに悪です。…妖にも思念があると聞きます。斬られる瞬間は身を裂く痛みを伴うでしょう」
「じゃあ…ぼくは、つみびとになるのですか?」
母は首を横に振る。
「……妖でも命を奪うことは悪です、けれど。あなたは人。同じ種を守らねばいけません」
それが必定。奪われる前に、手足をもがれる前に、先手を打つだけのこと。母はそう諭した。
『─なにかを守るために、あなたは修羅になれますか』
・ ・ ・
俺は幼少期は器用な方だったのかもしれない。
読み書きもそろばんもすぐに覚えて、6つになる頃にはミミズの這ったみたいな字で書かれた、妖に関する文献を読み漁っていたらしい。
「…気味が悪いわね」
「しっ。不敬よ」
「ごめんなさい、つい。でも若様…まだあんなに小さいのに」
外で跳ね回って遊ぶより、家の中で何かに没頭するのが好きなのは元々の気質もあるだろうが、それにしても同年代の子と比べてとりわけ異質な─お世辞にも活発な子とは言えない俺を、周りは気味悪がった。
学校から帰って来ては妖の書物を読み、知識を吸収し、父の稽古や実戦を想定した戦いで生かす。
何も難しいことはなかった。
手順を踏んで、きちんと教えの通りやっていけばいいだけのことなのだから。
