振ってきた声は明るかった。
「灯雅…」
「憂い顔が月夜に映えるねぇ? 綺麗な顔だ。妬いちまうよ全く」
「…今晩は月は出ていないよ」
灯雅はたまにこういう冗談を言う。
そうだった、赤い舌を見せて頭を掻いた灯雅は胡坐を掻いて、どこから出してきたのかわからない煙管を咥えて煙を吐き出した。
「それで。なんかあったんだろ」
押し黙った。
「何もないよ」
「噓つきめ。顔に出てんだよ主は。あたしには言えない悩みかい?」
それなら無理に聞かない、灯雅はそれきり黙った。
「くだらない…感傷だよ」
少し過敏になりすぎた。けれども神経をとがらせて生きることはやめられない。性分なのだから。
「周りを羨んでも仕方ないってわかってる。仕方ないんだ、この家は…この生まれは」
少し笑うと灯雅は目だけ笑った。ふわり漂う煙臭に目が痛くなる。
「そうだねぇ。人間は産まれてくる家を選べない。家だけじゃない、親もさ」
「うん。その通りだ」
「…安心しなよ。何があったってあたしが守ってやるからさ」
金色の目がすっと細められて、俺の頭を大きな手が撫でた。力なく笑って礼を言った。
「あんたが願うならあたしはこの家の人間、全員殺せるよ」
しれっと呟く声に顔を向ける。灯雅の目は静かな敵意に燃えていた。
