俗にいう夫婦岩ってやつだ。森の入り口に、寄り添うように生えた大きな岩を祀った結果、宿った霊魂はこうして姿を持って霊界で暮らしている。
「いやいや、不思議でいい話だよね。ラブラブそうで何より」
「やだあもう、汐(うしお)さんったら!明は私がいないと駄目だなんてそんな大げさな」
うん、そこまで言ってないんだけどね。バッシバシ叩かれる肩が悲鳴をあげてる。
頬をぽーっと染めて、うっとりする呉に呆れながら明はおもむろに口を開いた。
「汐、お前別に二つ名は悪いことじゃないけどよ」
「ん?」
「…いや。汐はどの主につけてもらった名前だったか」
「んー…もう死んだっけな、じゃ忌み名だ。あはは。嫌だったら他ので呼んでくれよ」
えーと、何があったかな、と思い出して順繰りに呟いていく。
名前なんて幾つあっても変わらない。忌み名だって別に、気にしてない。あの名はどの主に、いつ呼ばれていたっけ、考えても顔も名前も思い出せなかった。
ただわかるのはどれも僕のものだ。全部の人間が、僕と共にいたという事実。一緒にいるなら多い方が楽しい。ひとりに絞ったらつまらないじゃないか。
「二つ名…諡(おくりな)をいくつも持てる、か。でもよ、やっぱり良くないんじゃねえの?俺が口出す領分じゃねえ気もするけど─」
「ひとつに名を絞って、ほかの名を捨てろって?」
「あぁ」
明はいっつもこれだ。悪いことじゃないとか言いながら、しっかり二つ名もちアンチじゃないか。今日も今日とてお説教か、あー…つまんないな。
「だって一つの名前を体に刻んだら。僕は完全にその人間の所有物(もの)になっちゃうじゃん」
そんなの、自由じゃない。
