アカバは笑って私の髪を撫でた。
「彼女が忘れても、私が覚えている。…皮肉なことに、長らく呼ばれない名の持ち主でも一度結べば縁は強かった。私は消えることもできず、彷徨う亡霊になってしまった。それでも好きだったんだ、茜を忘れたくない。向こうが覚えていなくとも私だけは覚えていようと」
想い続けた。
「アカバ…」
ぐっと彼の手を掴む。大きくて優しいてのひら。
「杏子!?」
今まで何も言わなかった師匠が大きく私の名を呼んだ。続いてアカバの間の抜けた声。
「ど、どうしたんだ」
「茜さんに会いに行こう!」
アカバの目が大きく瞠られ、やがて苦々しげな顔つきへ変わる。
わかっている、これは彼の意思を踏みにじる最低な私の我儘だ。
「何を考えているのか知らないが、無駄だ。あれはもう記憶を─」
「だったらまた、一から始めようよ。また最初から茜さんと恋をして」
