【アカバside】
話し終えて一息つくと、杏子は今にも泣きそうな顔をしていた。
「なんて顔してるんだ」
「だって…そんなの悲しすぎるよ」
「そうするしかなかったんだ。彼女の未来を奪うような真似はしたくなかった」
例え茜がそれを望んでいたとしても、臆病な私は彼女に触れさえできなかった。真っ新で無垢な彼女を穢してしまいそうで恐ろしかった。
「…それから茜さんとは?」
私は静かに首を横へ振った。
「毎日想ったさ。特に秋になると一等茜に逢いたくなった。必死に想いを抑えたがどうしても堪らないときはこっそり様子を見にも行った。…あれは気配に敏感なのか、何度も見つかりかけて胆が冷えた」
見つかったらきっと怒られるだろう。それも可愛らしいが、自ずから別れを告げた癖にひっそり見ていると気づかれたら格好つかない。
遠くから、眺めるだけで幸せだった。想うだけで心が満ちた。年を重ねるごとに茜は綺麗になっていく。
妖と人の流れる時間は違う。共に生きるのは不可能だ。
名を呼ばれなければ消える。それもまた一興。どんな結末でも幸せだと心の底から思った。
