秋は、特にかき入れどきだった。
この辺りは、紅葉が綺麗で有名なのだ。観光に訪れた客が流れて来てくれ、一年のうち一番稼げる時期。その分忙しいけれど多くのお客と関わるのは楽しいものだ。
何回か秋が巡って─私は“彼”と出会った。
どきりとするほど綺麗な眼差し、上等そうな赤の着物。派手な身なりだったが変に偉そうぶる様子もなく、なんだか安心した記憶がある。
最初はどこかの御曹司か何かだと思っていたが、共に過ごしていくうち、彼はひとではないと気づいた。
その思いを確固たるものにしたのは彼に名を訊ねた時だ。暗い声で「名前がない」と言う彼に、なんだか私は悪いことをしているようで居た堪れなかった。
けして責めているわけじゃないし、人でなくとも私は恐れたりしないのに。
「アカバさん」
私は彼に名前をつけた。二人だけしか知らない秘密の名前。アカバさんはくすぐったそうに笑っていた。
月が昇る頃になると彼は決まってやって来た。積もる自分自身の思いに気づけない程初心な年齢でもない。
