【茜side】
どちらかといえば苦労性だと思う。
生後間もない私と母親を残し父は亡くなり、母は女手ひとつで私を育ててくれた。逞しく、快活で頼れる母。そこそこ歴史のある茶屋が、私の実家だ。
ひとりで店を切り盛りする母には感謝と尊敬の意しかない。茶屋の客足は時間と季節によってまばらで、大勢の人で溢れ返って忙しい日も、全く人が入らず頭を抱える日もあった。
それでも母の疲れた顔や弱音を吐く姿は一度もない。いつも笑っていた。
「つらくってもとにかく笑いなさい。笑ってるうちに、大したことないって思えんのよ」
母の口癖。強く綺麗で、一本芯の通った女性。そんなひとに私もなりたいと思った。
けれど─。
「お母ちゃんっ!!」
確かあれは私が11才のとき。冷え込みの強い冬の日。
母は息を引き取った。びっくりするくらい呆気なく、さっきまで元気に歩いていたのに、と医者に問えば「疲れが溜まりすぎていた」のだという。
白い布を取っ払ってみてもちゃきちゃきと話す、あの話し声はもう二度と響かなかった。
