はらり、ひとひら。



「東雲っ─」

『あああ…ア』


邪鬼は天音のことなど眼中にないようで、血の匂いにつられたのか私を見つめていた。真っ赤な目を睨みつける。


『人、いい匂い、食う、食わせろ!』


尋常じゃないスピードで突っ込んで来る黒い影に慌てて身を翻す。すんでのところで免れたが、


「速い…っ」


のたうつように地面を駆ける姿。変色した手足で踏み荒らされた草木はじゅうと音を立てて朽ちる。ざんばらの髪に赤黒く染まった口元。見ていられない。



「東雲!!聞け、天音だ。忘れたわけではあるまいな!?」


天音の鈴のような声は森によく響いた。


「もうやめろ!っ…やめてくれ東雲!」


『ううう、煩い─黙れえぇエ』


「!天音?!」


苛立った様子で邪鬼は天音に飛びつく。もろに攻撃を受け彼女はどしゃりと地面に倒れこんだ。