鳴った体温計を渡すと看護師は早々に病室から出て行った。
何もかもどうでもよく感じられたが、未だ絵を描くことは好きだった。スケッチブックを開いて、続きを書こうと色鉛筆を手に取った。青紫色の花。
もしかしたら夢だったのかもしれないが、どうにもリアルだった思い出が俺にはあった。何度思い出してみても、甘美なあの日々はおとぎ話よろしく不思議だ。
彼女は、俺のことを覚えていてくれているだろうか?
--------------------------
「名はたしか"千歳"と」
「ちとせ?女の人?」
「失敬な。男だ」
ごめんと謝る。桔々は軽く私を一瞥し続けた。
「彼とはよく丘で話し込んだものだ」
「丘?」
そんなところあるんだろうか、と思っていると師匠がさらりと続けた。
「町はずれの丘か?あそこはなかなかに絶景だぞ。桔梗の花が咲いている」
