「なんで……薫が」
弱い声だった。最後のほうはほとんど吐息で掻き消えていた。
「ごめん、あはは。こんなこと言ったってしょうがないよね。ごめんね。
あー、なんか、色んなこと一気に起きすぎて頭ぐっちゃぐちゃだ……」
ごめんね、また椎名さんは謝って首を振った。
考えられることとしては先ずひとつ。妖としての帰巣本能によるものか。
無愛想なやつだったが、あの馴染み方からして無言で消え去るのは考えにくい。
もうひとつは。
本来の記憶が戻って、在るべきところへ帰ったか。
だとしたら─平坂薫の向かう先は?
決まっていた。
「麻上のところだ」
言葉を吐き捨てる様に投げると息を呑む音が返ってきた。
見下げた先には不安げに揺れた大粒の瞳。
「そんな、どうしたら…」
「でもまだ決まったわけじゃない。椎名さん、緊急事態だ。作戦を変えよう」
考えろ。
どうすればいい。今一番すべきことはなんだ?
……俺たちたった二人にできることは、なんだ。
「今から話すことを、君によく聞いていてほしいんだ」
たぶんもう、ここでじっと待っていても麻上たちの暗躍を助長させるだけだった。
「あっちがその気なら、こっちもそれなりの手を打とう。俺たちは──」
