はらり、ひとひら。



椎名さんはなぜあそこまで、人にやさしく尽くせるのだろう。


限界まで剣を抜かない。
他人を傷つけるくらいならば、自らがその傷を受けるほうを選ぶ。
自分が傷つくのは厭わないくせに、周りを傷つけることは許せない。

たとえそれが怨敵であろうとも。
自己の命を脅かされていたとしても。

綺麗ごとではない。本当にそういう子なのだ。いっそおかしいくらいに彼女は無垢で潔白。


─時折椎名さんは俺に「優しい」と言う。
決まって、そんなことはないよと否定するのだがそれに重ねる様にして彼女もまた否定する。


「神崎くんは強いから」


強いのはどっちだろう。

自分を守るために振るう剣と、誰かを守るために振るう剣。
どちらが上か。

そんなものは明白だ。



ゆらめいた水面の先、うつる自分の顔がなんとも情けなくて笑えた。





それぞれが身支度を整えてからまた部屋で合流した。軽く食事を摂っていると椎名さんが思い立ったように声を上げた。


「ねえ、電話借りてもいい?」

「電話?」

「うん。家から着信きてて……かけ直そうとしたんだけど携帯、圏外で繋がらなくって」

困ったように笑いながら「ごめんね?」と申し訳なさそうに眉を下げる。


「気にしなくていいよ。うちこそ電波が悪くてごめん。じゃあ子機持ってくる……」


襖の外に足を向けた時。
静かな足音を立ててお手伝いさんが現れた。


「椎名さんのお母様からお電話です」

「え!」


丁度いいタイミングだねと顔を見合わせると彼女はすぐに代わった。


「もしもし」


部屋の隅のほうで壁を向いて話す彼女のほそい背中。



「え」



それが、大きく揺れた。