はらり、ひとひら。


「お、お借りしてもいいですか……? あぁでも着替え…ない」

「ああ…そうか。んー……じゃあ代わりのもの用意しておくから。あの、お願いします」


通りがかったお手伝いさんに話を通せばすぐにでも準備をすると言ってくれた。



「神崎くんはもうお風呂入ったの?」

「俺は別のところ使うからいいよ」

「え!? お風呂二か所もあるの!?」

「え? うん。大浴場と、他に数か所…いくつあるか忘れたけど、あるよ。狭いけど」

「えぇえすご……さすが豪邸…!」


すごいすごいと椎名さんは声を上げた。
よくわからないが喜んでいるようで、無邪気なまるいほっぺを見てやっぱり幼い、と口元が緩んだ。


「準備ができました」

「あ、はい!」

「じゃあ、またあとで」

 
軽く手をあげて別れたのち、俺も湯殿へ足を向けた。


ぬるめのお湯と檜の香りの入浴剤。
それから、シャンプーの香り。

─はあ、と長い息をついた。

ここのところ、ろくに湯船に浸かっていなかった。
久々の熱い湯が体に沁みる。湯気がゆらめいてほどよい湿度が頭をほぐしていくと、ささやかに気持ちが緩んだ。そのまま瞼を降ろせばすべてがなくなる気がしてくる。