「しかし、妙だね」
部屋に戻ると灯雅が煙管を噛みながら言葉を運んだ。
「あの子から式神の気配がしないんだ」
「…え?」
どういうことだろう。
「気のせいかとも思ったんだが─あの子まさか、白狐を捨てたんじゃないだろうね」
「捨てる…? 待って灯雅。話が見えない」
「アタシもよくわからないが、あの妖気の消え方は妙だ。ぱったり綺麗に途切れてる。まさかと思うけど」
祓ったワケ、ないだろうね。
飛んできた言葉は予想を大きく外れたものだった。
祓う? なぜ。白狐は椎名さんをずっと守っていた。
彼女がそんなことするはずない─
と、ひとつ息を呑みこんだところでひとつだけ、頭に引っかかったことが思い起こされる。
あのとき、病院で。
兄さんふたりに月子の容態を聞いているとき…
化け妖という言葉に反応した彼女は俺に
『師匠も、そうなのかな』
と聞いてきた。
