『今日は待ちに待った八千代祭り!皆さん浴衣の準備大丈夫ですかー??』

「「大丈夫でーす!!」」

朝、9時。
テレビの前でキレの良い声が耳を霞める。
パジャマ姿ではしゃぐ、花恋と美波。
その近くで大あくびをするあたし。
今日は珍しく、大久保夫婦、成瀬夫婦は四人でお出掛け。
今日から5日間カナダまで泊まりに行くらしい。
全く、暢気な人達だ。
そして、翔太くんは、というと。
「明日には帰って来る」とか言って出掛けてしまった。

「はぁー…」

だから今日1日は花恋、美波、あたし、ということになる。

「なぁに、溜め息なんかついてんのさ」

美波があたしの肩を叩く。

「えー、もしかして翔太がいないから落ち込んだとか」

花恋がそう述べる。
いつから呼び捨てで呼ぶようになったのか不思議だが、どっちにしろ花恋はあたしを茶化したいらしい。

あたしはただ二人の言うことに苦笑するしか出来なかった。






コトン。
庭のししおどしが傾いた。
時々聞こえる風鈴の音色と蝉の鳴き声が少しばかり響く。

この場にはあたし一人。
二人は浴衣を着てみようと言って、部屋に戻っていった。
寂しく、テレビだけが喋っていた。
すると、ある話題に入った。
その話題は“連続殺人事件”。

『これが連続殺人事件の犯人と言われる人物、《ネモトカズキ》の写真ですね。女性が好みそうな甘いルックスで――…』

《ネモトカズキ》と思われる写真は、当時18歳だと言う。
確かに女性が好みそうな容姿で、殺人をしそうなタイプではない。

こんなにカッコいいのに、勿体無い。
これがあたしの本音だった。
するとアナウンサーに紙が渡され顔色を変えた。

『只今、速報が入りました。皆さん、落ち着いて聞いてください』

あたしは言われたように落ち着いてアナウンサーを見る。
釘付けだった。
すると、アナウンサーの血の気が引いたのをあたしは不審に思った。

――嫌な予感がした。

『…た、只今逃走中の《ネモトカズキ》ですが…〇〇県〇〇市の〇〇地域に出没しました。近くに住む人達は冷静に対応し十分な警戒をしてください。…もう一度言います。〇〇県〇〇市の――…』


嫌な汗が頬を伝った。
県、市、地域。
全てがこの、あたしが住む地域にぶつかる。
とうとう姿を現した。




甘いマスクを被った《ネモトカズキ》という――――鬼が。