「あーあ。暇だなぁ」

あたしはいつもと同じ場所にいた。
いつもの場所。
それは。

庭を一望できる、縁側。

裸足をバタつかせ、ペチペチと鳴る音に愉しんでいた。
足の裏が石に当たるたび、気持ちの良い冷たさに、つい和んでしまう。


「だけどやっぱり、暇な方が楽だぁー…」


あたしはさっきの出来事を思い出す。



―――…


「ほいっ、ほいっ、ほらっ!!」


庭で必死に鳩に餌をあげる、翔太くんの姿があった。
初めはただじっと縁側に腰を下ろし、見ているだけだった。
別に飼っている訳ではない鳩、十匹に餌を与えていた。
翔太くんによると。

「なんかノリで餌やってたら、毎日のように来ちゃってさー」

と。

「なら、あげんなよ!!」
「毎日あげるなんて、バカか、お前は!!」
なんて。
喉まで来た言葉を必死に堪えた。

そして今、これを続けてきて1ヶ月が経ったらしい。
よく、続けられたな、と、感心してしまう。

だけど…。

「鳩、食べないじゃん」

あたしが嫌味のように口走ったら、翔太くんはピタリ、止まり、黒いオーラ全開にしてあたしを見た。

「…もう一回、言って」

「え?別に良いけど」

次は意地悪っぽく口角を上げ、頬杖を付き、首を傾げ、いかにも挑戦的に言い払った。

「鳩、食べないじゃん」

指を指して言うと、一度は固まったものの、翔太くんはあたしに近付いて来て、鳩の餌が入った袋を差し出した。

目で、「なら、お前があげてみろ。鳩、舐めんじゃねぇぞ?あぁ?もし、食って貰えなかったら命が無いと思え。クズが」と訴えてくる。

「ラジャー」と、棒読みで。
無表情のまま袋を取り、あたしは鳩に近付く。

見てろよ…。
あたしが鳩に餌、やれないわけがないこと、証明してやる!

が。

バサバサバサ。

それは袋に手を突っ込んだ瞬間でした。
目の前の鳩は消えました。
なぜでしょうか。
目の前には、鳥の羽とふんだけです。
鳩が変化したのでしょうか。
はい。
そうです。
変化したのです。

あたしは翔太くんの方を向き、頭に片手を添えて。

「すみませーん。あたし、鳩嫌いだからー。追っ払っちゃったー。ま、餌は今度でー」

あたしはブリッコでか弱い女の子を演じた。
だけど翔太くん、いや、翔太様には伝わりませんでした。

あのあと、こっぴどく嫌味を吐き捨てられました。

「あはは…」