ガタンゴトン。
ガタンゴトン。
ガタン……。


『次は、○○駅○○駅。お出口は…―――』


あまり人のいない電車の中。
あたしは携帯を片手に電車の揺れに乗る。
携帯にイヤホンを挿し、ニュースを見ている。
左上には《13:21》の表示。
携帯の画面に見えるのはもう数年会っていない、“元婚約者”の大久保翔太と大久保達大。
光るフラッシュと記者の質問に緊張も見せずに堂々と話している。

『新しく“大久保社”の社長に命じられた、元社長、大久保達大の息子の大久保翔太と申します』

「はは…」

力なく笑いが溢れる。
こうして見ればふつうの爽やかイケメンなのに。
灰色のスーツも着ちゃって。
本性知れば大変だけど。
やっぱりかっこいいね。

『ご迷惑を御掛けすることが多少、いやたくさんあるかもしれませんが、温かく見守って頂ければと思います』

『僕からもよろしくお願います』

翔太くんが頭を下げると隣にいる達大さんも頭を下げた。
前までは一緒に住んでいたあの二人はなんとなく変わっていた。
不思議だな。
テレビに出ている人があたしと面識があるだなんて。

違うニュースに変わると、あたしはイヤホンを外し、携帯を閉じた。




あの日から、五年が経った。



『みんなに話すことがあります。あたしは……好きな人ができました。だから……申し訳ないけど翔太くんとは一緒になれません』

やっと言えたあたしの決意。
みんなはビックリした表情をして、そのあとは笑ってくれた。
みんな、受け入れてくれた。
強制的な恋愛じゃなくて普通の恋愛をって。
そう言ってくれた。

だから今、あたしは一人暮らしをするため、あたし一人引っ越しに来た。
両親はまだ、いや、これからずっと大久保家に住むらしい。
全く…………。


23歳になったあたし。
大学に行きながら、バイトもしてる。
大学は引っ越し先に近い場所。
まあ、引っ越し先も大久保家からあまり遠くはないけど。


あたしは目的の駅に着くと携帯とイヤホンを鞄に入れ、立ち上がった。