「…じ…かん…?」

震える声で聞き返す。
空気が痛いくらい冷たい。
どういう意味がわからない翔太は遥を見る。
力なく笑った翔太。

「……ど、どういう意味だ…」

静かな部屋で掠れた声の笑い声が虚しく響いた。
眠る美月は険しい顔をして寝息を立てる。

「そのまま。…時間がないだけなんだ……俺には…」

「…な、なんだよ…!!…それ……」

翔太が震え出した時、遥は急に翔太の顔の前に自分の左手のひらを見せた。
翔太は反射的に目を瞑り、何も起きていない事を把握する。
ゆっくり、目を開けると、一気に血の気が引いた。

「……は…」

確かに目の前にあった遥の手のひら。
だけど見えたのは遥の儚い表情。
目線を下にしてみれば、手首はあった。
だが、手のひらはまるでないかのように向こう側が見えていた。

つまり、手のひらが透けていたのだ。


「…ど…どういうことだよ…」


透けた遥の手を必死に触ろうとする翔太。
頑張って、頑張ってソレを触ろうとするが、手首から触れないのだ。

途端に恐怖が押し寄せた。
息が荒くなり、瞬きをすることが困難になる翔太。

「…これで、わかったかな」

「……これでって……お前…なんで………」

遥はフッと笑った。

「…君に美月を頼みたい」

「…っ…」

「もう俺に残された時間は、本当に残りわずかなんだ」

「んなの……知るか…ボケ…」

眉を歪ませた翔太はだらりと身体から力を抜いた。
俯く翔太の目には涙が溜まる。

これまで時間が無かった事を知っていた遥自身は、今までどう生きていたのか。
自分が美月の婚約者だと聞いた遥はどうして冷静にいることができたのか。

なぜ今こうやって、意味のわからないように消えかかってんのに笑っていられるのか。

翔太は頭の中で疑問を訴えた。


「……一体、何者なんだ…、消えかかって…」

「……難しい質問だね」


遥は微笑むと悲しそうに答えた。




「……愛することがやっとわかった時、命を手放してしまった悲惨な青年の魂の断片、かな」



翔太はこの時、ようやくわかった。
“遥”という人物は、“人”ではないと。
悲惨な青年の魂の断片なのだと。
ならば今見ている人物は霊なのではないのかと。



静寂な部屋の中、眠る美月は静かに笑っていた。
良い、夢を見ながら…―――