「…また、被害妄想か」

「はっ…」


いつからそこにいたのだろうか。
あたしが遥の名を呼ぶ前に遥はあたしを抱き締めていた。


「遥…?」

「君は俺を信じられないの?」

“信じる”。
それは簡単そうで実は奥が深くて難しい言葉。

あたしは遥を信じれない訳じゃない。
ただ不安になって、遥を巻き込んでしまっただけ。

「信じれるよ…。普通に」

「知ってる。わざと言ってみただけ」

「?」

さっきの湿った空気と一変した。
遥は笑ってあたしを見つめる。


「何しんみりしちゃってるの?面白いね、美月ちゃんは」

「…意地悪変態マイペース男……!!」

あたしは遥を押し倒した。
そしてお腹を叩いてやった。
遥は「ごめんなさい」とか「調子に乗りました」などと笑いながら謝罪する。
しばらくしてあたしは遥を見下ろして舌を出した。

「まったく…」

あたしは遥の上からソッと退き、タンスの方に向かう。
手に取った服は小花柄のワンピースと白いモコモコのコート。

「遥、ちょっと出ててくれる?あたし着替えるか―――」

「脱がしてあげようか?」


視界が陰った。
あたしはタンスと遥に挟まれてしまう。
遥はタンスに手を付け、あたしを逃がさない。
見上げた遥の顔はまるで怖いくらい怪しく、綺麗だった。

「…嫌なの?」

「…えっ……」

「ふぅん。嫌じゃないんだ。……なら」


遥はあたしの腰に巻いてある帯を取った。


「…あっ」


あたしは前が開いてしまった浴衣を手で隠す。
だが。

「…見せてよ」

遥はあたしの両手首を押さえ付けた。
勿論、身体を遥に見られてしまう状態。

「いやっ、遥…やめてってば」

「どうして?…昨日の夜、隅から隅まで全部見たのに。今更隠したって無駄だよ」

遥の顔は遊んでいるようだった。
あたしは怖いって思うはずなのに、ドキドキと胸が鳴り付けてしまう。

「…それとも、……夜の続き、やっちゃう?」

「…そ、それはっ!!」

正直、嫌じゃなかった。
遥を感じれるのであればむしろ嬉しかった。
だけど…。

「そんなに続けてやるなんて、身体がおかしくなっちゃいますーーー!!!!!!」

遥は笑いながら両手首を離すと「早く着替えちゃいなさい」と言って部屋を出ていった。

「…もう」

あたしは苦しい程に鳴り続ける胸を押さえながら、服に手を伸ばした。