「……もう、いないもの」
「姫さん、どうしてあんなこと言ったんですか」
リュウの厳しさを含んだ声に、再び視線をリュウに戻した。
「ジェスが姫さんのことをなんとも思ってないって――本気で言ったんですか」
口調こそ普段のリュウとなんの変わりもないが、震える声を聞いて、必死になにかを抑えている様子がわかった。まっすぐとルーンを見据える瞳は、今にも鞘から抜こうとする剣のようだった。
思わず一歩足を引いて、逃げるようにルーンは瞳を伏せた。風に流されてしまいそうなほど、小さな声でぽつりと呟く。
「……だって、ジェスはいつもわたしのことを王女として見てた」
言って、唇を噛んだ。
――そう、いつだって一線引いていたのはジェスなのだ。
どれだけ王族というドレスを脱ぎ捨てジェスに接したところで、ジェスの態度は変わらない。堅苦しい物言いを聞くたびに、胸の奥でいやなものが燻った。頼み込んでやっと多少砕けたと思って喜んだが、自分が頼んだから――王族の申し出を否むことができず、恐縮してのことだったのではないかと、そんな疑念がずっと拭えずにいた。



