万年樹の旅人


(ルーンは母親に似たのだな)

 今はもう傍にいない妹を、母の瞳から思い出す。

 庭の蕾が開いたと、雨上がりの空を見上げて虹がかかったと、――アズが笑ったと些細なことでも喜びを全身で表していた妹の瞳も、いつも素直に感情を表していた。

 だからこそ怖かった。大人になっていくにつれて、自分を慕っていた妹の瞳に違う景色が映っていく様子が。だから排除した。この世で唯一美しいと思える妹の周りには、余計なものはいっさい必要ない。いずれは自分の妻となり、王妃となるとき邪魔になるものは全てアズが命を下した。ルーンのためを思って、ルーンが喜ぶと思って。離れなくてはいけない宿命ならば、それは早いほうがいい。後になればなるほど、手放しがたくなる。けれど、ルーンは喜ぶどころか、自分を敵視するようになった。

 夜が怖いと、泣いてアズの部屋に忍び込んできた幼い少女はもういない。


「失望したでしょう。私は一国を消すことになる」

「……そう思うなら、せめて最後ルーンを見守ってあげなさい」


 俯き、「そうですね」と頼りなく呟いたアズの表情は、母の位置からはよく見えなかったが、言葉なく母に背を向けたアズが、冷たい涙を流しているように見えた。