汚れた装束にくるまり、自分自身を抱き込むようにしてルシアは目覚めた。

 夢の中で、あんなにも鮮明だった青年の顔も声も、木々の隙間から覗く朝日のように眩しかったはずなのに、今はどうだろう。二十五という歳の割には落ち着いた物腰を思わせるその声も、しかし自分よりも五年も上をいくとは到底見えない童顔も、今は朝霧の向こうにいるようだ。逃げていく映像を必死にとどめようと、何度も瞬きを繰り返し眠気を退けたところで、それは変わらなかった。

 たった二年。

 故郷から離れていた年月は、長いとは決して言えないというのに。こんなにも忘れてしまうものなのかと、驚きよりも忘れかけているという事実に罪悪感を覚えた。

 雲ひとつ見当たらない朝である。

 たまに流れてくる暖かい風に吹かれ、木々がざわめき小鳥が高い声で鳴く。

 森の中は陽の光が少なく、若干の肌寒さを感じるものの、薄手の旅装束と頭からすっぽり被れる外套ひとつあれば十分なほど暖かい。一年前まで、日中でも全身を刺すような寒さの厳しい北の土地に滞在していたことが、まるで嘘のようだった。

 世界はとても広い。

 きっと他人が聞けば、何を当たり前なことをと言われてしまうだろう。けれど、そんな当たり前の事実すら、ルシアには珍しいのだ。行く先々で見える景色、空気、人々。なにもかもが輝いて見える。口にする食事も故郷で食べたものとは違う。中には決して美味しいとは言えないものだってあった。けれど、体験してきた全てのものには、マイナスを補えるだけの魅力がある。現に今だって、綺麗に洗濯されたシーツやふかふかの寝台で眠ることはできなくても、ふと夜中に目覚めて気が付けば、すぐ隣に魔物がやってきていることだって珍しくはないこの世の中が、楽しくてしかたない。