泰兄を見た。
この後、あなたはこの人と過ごすの?
そういう関係なの?
胸が締め付けられるように痛む。
本当にこの人と…?
私の視線に気付いた彼が顔をあげた。
目が合う。
そして笑ったの、微かに。
私は目の周りが熱くなるのを感じて、慌ててバックバーに目をやった。
背後から聞こえる彼女の甘い声。
息をするたびに、この胸が大きく上下した。
動揺してる、私。
完全に動揺してる…
ギャルソンエプロンをぎゅっと握りしめた。
バカみたい、私。
ちょっとばかり泰兄と近付けたと思って、いい気になってた。
だいたい彼の何を知ってるというの。
何も知らないじゃない。
どうかしてる、こんなことで胸が苦しいだなんて。
深呼吸をして彼らに向き直った私は、彼女のご要望通り、今夜のふたりにふさわしいカクテルを作った。
その際、グラスを取ろうと手を伸ばした時に、何かをひっかけて落としてしまった。
床を見て、喉の奥がヒリヒリと痛くなった。
落ちていたのは、泰兄にあげようと思っていたチョコの小箱。
リボン代わりの小さな白い造花が歪んでいた。
バカみたい…!
私はゆっくり細いヒールを小箱の上に置くと、体重をかけた。
音も立てずに潰れる小箱。
私は何度も何度も踏んだ。
膨らんでいた期待を潰すように、何度も。
壊れた箱と潰された想い…
そしてバカな私。


