ふたり。-Triangle Love の果てに



「いらっしゃい、真琴ちゃん」


振り返ると、のぞみのお母さんが手焼きのクッキーを持ってきてくれたところだった。


小柄だけれど、まるで人形のように整った顔立ち。


「綾乃おばさま、おじゃましてます」


「何の話で盛り上がってたの?あら?」


私の顔を見た途端、おばさまは立ち止まって驚いたようだった。


「真琴ちゃん、きれいになったわね!恋人でもできたのかしら」


「お母さん、鋭い!」


のぞみがすかさず突っ込む。


「そんなことありません。のぞみも誤解を招くようなこと言わないで」


おばさまが持ってきてくれたクッキーをつまみながら、のぞみが言った。


「でもこんな世の中広いのに、再会するなんてきっと何かあるんじゃない?」


そうかしら、世の中広いんじゃなくて、狭いから出会ったのかもしれないじゃない。


そんなひねくれた考えが頭をよぎる。


黙って指を絡ませたり解いたりしていると、彼女は確信したように訊いてきた。


「あの人のこと、好きなんでしょ」


「…たぶん…ね」


好きよ、大好き。


だけど親友の前でも、それをきっぱりと認めることは何だか恥ずかしい。


「私、彼のこと何も知らないのよ。いつもお店のカウンター越しに話すだけだし」


「でも今日はここまでふたりで来たじゃない」


「それはお兄ちゃんが用事があったからで…それに泰兄には特定の女性がいるんじゃないかな。お店にもきれいな人とよく来てたみたいだし」


「今も?」


「今は…」


一人で来てくれるけど…


声にならない言葉を汲み取った親友。


「勇作兄さんは知ってるの?真琴と泰輔さんが頻繁に会ってるってこと」


「どうかな」


薄々気付いてるかもしれない。


でもお兄ちゃん、泰兄を何だか警戒している気もするし…


「思い切って言っちゃえば?好きだって」


「もう。他人事だと思ってそんな」


のぞみはおばさまに似て、本当にすばらしい美貌の持ち主だから、恋に悩んだ事なんてないのかもしれない。


でも私は違う。


自分で選んだ道とは言え、夜の闇にまぎれるように生きている。