そんな矢先、先生の何気ない言葉に私は思わず泰兄を凝視してしまった。
「3年ぶりかな」
え?
施設を出てから一度も会ってないって、言ってたはず。
彼の顔が「まずいな」というようにひきつった。
先生に会ってたことは隠さなきゃいけないことなの?
別に嘘をつかれたというのがショックなんじゃない。
どうして隠そうとしたのかがわからなくて、彼を咄嗟に見てしまっただけ。
でも泰兄にだって秘密はある、知られたくないこともある。
私は軽率な反応を示してしまったことに気まずくなって、言葉に詰まった。
そんなぎくしゃくした雰囲気の中、風が聞き覚えのある声を届けてくれた。
「まーこーとー!」
「のぞみ!」
防波堤の上で手を振る大親友、辻本のぞみ。
私はもやもやした気持ちを振り払うかのように、彼女のところへ走った。
天宮先生と泰兄の視線を背中に感じながら。
「久しぶりね!」
恒例のハイタッチ。
「3ヶ月前に会ったばっかりじゃない」とのぞみ。
「まぁね、でもいろいろあって長い間会ってなかった気がする」
「いろいろ、ね」
ちらりと砂浜のふたりに目をやると、のぞみは笑った。
「なあに?なんで笑うの?」
「別にぃ、いろいろあったんだなぁと思って。ね、うちで話さない?」
のぞみの家は診療所の隣にある。
お父さんがお医者さんで、お母さんが看護師さん。
豊浜で唯一の診療所。
のぞみのお父さんの辻本先生と、天宮先生は幼なじみで今でも仲がいい。
だからなつみ園の行事にはいつも家族で手伝いにきてくれる。
私がのぞみと出会って仲良くなったのも、施設のクリスマス会がきっかけだった。
かれこれ15年、私たちは大親友。
「ねぇ、さっき浜辺にいたのって、泰輔さん…って人よね」
「そうだけど」
ティーカップを置くと、のぞみが身を乗り出してきた。
「真琴の初恋の人、だよね。木から降りられなくなったのを助けてもらったんでしょ?」
「ちょ、ちょっといきなり何なのよ」
焦りまくる私。
「顔が真っ赤よ」
そう言われて慌てて頬に手をやると、のぞみはますます大きな声で笑った。
「ほら、あの人が施設を出る間際のバレンタインに、チョコをあげたいって言ってたじゃない。結局渡せなくて、私たちふたりで食べたんだよね」
やだ、そんな昔のこと覚えてるの?
確かにそうだったけど…
「今年こそは渡しちゃえ」
「やめてよ、からかうのは」


