マコが俺たちから離れるのを見届けてから、天宮が真剣な顔で口を開いた。
「まだ…あそこにいるのか」
「ああ。他に居場所なんてないからな」
「そうか。真琴は知らないんだろ?」
「言ってない」
「あいつさ、さっきからおまえの話ばっかり俺にするんだ。これがどういう意味かわかるよな」
わかってるさ、天宮。
あんたの言いたいことくらい。
俺だって馬鹿じゃない。
しばらくの沈黙の後、天宮が俺の肩を何度も強く叩きながら笑った。
「真琴を泣かすなよ。勇作が血相変えて、ぶん殴りにくるぞ」
「痛いからやめろって。ったく、だいたいあいつと俺はそんな関係じゃない」
「本当か」
天宮の目が光る。
なんでそんな目をする?
「勘弁してくれよ。あいつおれよりも8つも下だぜ?あんなガキに手を付けるほど女に不自由はしてない」
「ならいいけどな」
「くだらないこと言うなよ」
手を振り払う俺に、天宮は今度は肩を組んできた。
「毎月ありがとうな、本当に助かってるよ」
「建物のペンキが途中までだろ。金がないのかよ、だったら言えよ、もっと…」
「いや、充分なんだ、充分すぎるくらいだ。本当にありがとう」
「嘘、つくなよ。神父が嘘ついていいと思ってんのか」
「嘘なんかついてない。泰輔、ありがとう、感謝してる」
今、なつみ園には10人ほどの子どもがいるとマコが言ってた。
やりくりが大変なのは、天宮の痩せた顔つきを見ても明らかだ。
でも、彼は何とか話題を変えようとしていた。
だから俺も、それ以上は深く突っ込まなかった。


