「間違えてるって気付いてるなら、そう言ってくれない?天宮先生にはお昼前には行きますって連絡してあるんだから」
あんな大人の対応ができるくせに、今俺の前では頬を膨らませている。
「俺のせいにするな。道に迷ったのはおまえだろ」
「意地悪ね」
海岸沿いの路肩に車を止めると、マコはハザードランプを点灯させてカーナビをいじり始めた。
「もう、ついてない」なんてぼやいている。
だいたい何で迷子になるんだよ。
カーナビ通りに進めば、普通は道を間違えることもないだろ。
俺は小さく笑って一息つくと、真っ青な海に目を向けた。
風が少しあるのだろう、白波がところどころに立っている。
マコも俺につられて、深いため息をついた。
彼女のはあきらめた、重たいものだった。
仕方ないな。
「代われ」
「え?」
「代われよ、運転。ほら、早く」
「でも明け方まで仕事で疲れてるんでしょ」
おまえも寝てないんだろ、お互い様だ。
「つべこべ言わずにどけ」
運転席のマコと入れ替わると、俺はゆっくりとアクセルを踏んだ。
彼女は時折運転する俺の横顔を見てはうつむいた。
なだらかな丘の上の小さな木造の教会。
隣接する児童福祉施設「なつみ園」は、なぜか中途半端に白いペンキが塗られたまま放置されていた。
「改装中?」
「んなわけないだろ。天宮のことだから途中で資金が足りなくなってそのままにしてるんだろ」
マコは声をあげて「あり得る」と笑うと、シートベルトを外した。
「終わったら電話しろ」
「え!泰兄は?一緒に行くんじゃないの?」
「行くわけないだろ」
「じゃあなんで今日一緒に来たのよ」とムッとした顔。
「おまえが来たいって言ったからだ」
「なにそれ。天宮先生、あなたに会えるのを楽しみにしていらっしゃるのよ」
「あいにく俺は昔から天宮が大嫌いなんだ。おまえだけ行ってこい」
「ここまで来ておいて、まったく」
不服そうにマコは車から降りた。
説得しても無駄だってわかってるんだろう。
「何か伝えておくことはない?」
助手席の窓からのぞいて、そう訊く。
「ない」
彼女は呆れた顔のまま、髪をかきあげると「じゃああとでね」と手を挙げた。
俺はピンクのマーチを発進させた。
ルームミラーに目をやると、彼女が腕組みをしたままこちらを見ていた。


