「私は、一人前のバーテンダーにはまだほど遠いからです」
「君はもう一人前だよ、私がそう認めてるんだから」
「ありがとうございます。けれど、私自身が自分の今の技術に納得してはおりません」
ほう、とその男は胸の前で指を組んだ。
「じゃあ、君は納得できる腕を持っているといつになったら自信がつくのかな」
「3年…少なくとも3年はかかるのではないでしょうか」
「裏を返せば3年待てば、君は私のところに来てくれるということかな?」
「何も状況が変わらなければ、ということが条件になりますが」
「状況、か。もしその間に君に言い寄る男がいたとしたら、それは状況が変わったということになるのかな」
この男、やっぱりバーテンダーとしてではなく、マコ自身が目当てだったのか。
「もし仮にそういう男性が現れたのならば、その方と私をめぐって闘っていただけますか?」
不快な表情を微塵もみせずに、いたずらっぽく笑うマコ。
「それはそれは大変なことになりそうだな。今から作戦を練っておかないと」
男はおかしそうに笑った。
「私もその時になって、やっぱりたいした女じゃなかったと言われないよう日々努力いたします」
中年男は声を立てて笑うと、席を立った。
やるな、俺は正直にそう思った。
無下に拒絶するのではなく、相手を尊重しつつやんわりと断る。
あの男も気を悪くした様子もなかった。
俺がマコを見た。
だがあいつは悔しそうに唇を噛みしめていた。
バーテンダーとしてではなく、「女」として見られたことが悔しい、そんな感じだった。
だが俺と目が合うと、恥ずかしそうに笑い肩をすくめたのだった。


