日曜日の早朝。
息をきらせてYesterdayの仕事から帰ってきた真琴は、一番に風呂場に向かった。
俺はベッドの中から、音で真琴の様子を伺う。
いつもは使うことのないドライヤー。
時折聞こえる鼻唄。
あいつのウキウキした様子が目に浮かぶ。
出かける、とは言っても、真琴はちゃんと朝食の準備をしてくれる。
手を抜くことなく…いや今朝はいつもとは違う「豪勢」なメニュー。
フレンチトーストにサラダ、ポトフにフルーツヨーグルトときた。
そしていつも以上によくしゃべる。
ひかえめはメイクなのに、頬はピンク色を呈している。
複雑だな…
娘をデートに送り出す父親ってこんな気持ちなんだろうな、と俺は思った。
午前9時。
「免許証は持った?」
「うん、もちろんよ」
「ガソリン入ってるか?給油口は右だからな」
「わかってる」
「気をつけて行くんだよ」
「大丈夫だって、お兄ちゃん。私、今まで無事故無違反なんだから」
無事故無違反っておまえ、運転してないだけだろ、と突っ込みたくなる。
淡いピンクのマーチ。
車を買うときに、絶対これがいいと言って頑として譲らなかったくせに、運転するのはいつも俺。
ちょっと恥ずかしい。
対向車の運転手と目が合うとなおさらに…
信号待ちで女子高生に見られるとかなり…
恥ずかしい。
「お兄ちゃんのほうが運転上手だから」とか「夜の仕事だから運転中に眠くなっちゃいけないから」とか、いつも言い訳してたくせに、仕事明けの今日、張り切って運転席に座ってる。
「昨日から一睡もしてないのに、豊浜まで運転なんて本当に大丈夫なのか?」
「平気平気」
「何かあったら連絡するんだよ」
「はいはい、お兄ちゃんも千春さんと楽しんでね」
そうだった、そういうことになってたっけ。
「ああ、そうだね」
曖昧な返事の俺をよそに「じゃ、行ってきます」と真琴はアクセルと踏んだ。